とっかかり


物事には、とっかかりというものがある。

そのとっかかりにひっかかったまま、長いこと御縁が続く場合と、せっかくとっかかったのに自然消滅してしまう場合とがある。

私は、幸いにというか、すっかりととっかかったまま、現在に至っている。

国道沿いの本屋。何の本を探しに来たわけでもない。代わり映えしない文庫の棚を通り過ぎ、興味のない雑誌の山を行き過ぎて、でーん、と背の高い壁に貼り付いた棚の前。

ふっと目を落とすと、「あなたもハングル文字を3分で読める! 」

そんなわけないやろ。

ハングル文字を目にしたことがなかったわけではない。NHKのテレビ講座はとうに始まっていて、ちょろっと見たことがあった。文字は母音と子音に分かれていて、その組み合わせで読むのだということも知っていた。

けれど、その母音が十一もあると知って、怖じ気づいてしまったのだ。

だから、3分で読めるはずがないことを証明するために、その本を開いたのだ。

まずはxa。母音には○がつくのだ。あ、と読む。だから、あいうえおはxaixu。ふーん。

子音との組み合わせによって、あらゆる音を表すことが出来る。mmはMで、nnはN。rrはR。

ふーーん。ローマ字に似ているのだ。

田中はdanaになるし、山本はyama

ふーーーん。

じゃあ、ameは何と読むか。

簡単簡単。あめりか、やん。正解。

そんならsoxuは。

あ、子音が下に付いてる。ということは、これは子音で終わる言葉なんだな。だから、ソウル、かな。あってた、あってた。

あれ。

読めた。読めるやん。

もしかして、とNHKのテキストのコーナーを探した。ハングル講座は、十月から新講座が始まっていた。今は十月の末。でも、まだそんなに進んでいない。安いテキストだし、ちょっとやってみるかな。

告白しよう。NHKのテキストを買ったのは、それが生まれて初めてだった。

初めての出会いは、そのまま私を引きずり込んで、離さなかった。

いわば、初恋の相手と結婚してしまったようなものだ。

・・違うか。

出会いの理由は、何でも構わない。恋人がいるとか、親戚がいるとか、仕事で必要だとか、なんでもかまわない。出会いの理由を、人に合わせる必要はない。

恋愛の仕方を人に合わせる必要がないように、出会いの理由はそれぞれであっていい。

そして、勉強の方法も、それぞれであって構わない。

勉強の方法を探すことも勉強の一つである。恋愛がそうであるように、恋人がいるというだけで恋愛が成立するわけではない。相手を知ろうとすること、そこから自分を知ろうとすること。出会いを熟成させていくこと。

そこから、本当の関係が始まるのだ。

menu

Copyright (C) 2002 shishow