鼻で笑う、というと、まずは人を馬鹿にした笑いである。

腹を抱えて笑ったり、涙が出るほど笑った場合の笑いは、口で笑われる。肩で笑っている場合、笑いが外に出ないように必死に押さえる気遣いが見える。

けれど、それは「見た場合」である。音を聞いただけで、その笑いの息が鼻から出たのか口から出たのか判断するのは、難しい。

オリンピックのフィギュア、元スケート選手の解説者が、笑いながら話していた。もちろん鼻で笑っていたはずはない。つんつん冷たく解説していたのでは感じが悪いから、笑みを浮かべながら話していたのだろう。

けれど、マイクでは笑顔は伝わらない。伝わるのは、音だけである。

「今の、ふん、ジャンプは回転の、ふん、軸がずれていましたね」「審査員が、ふん、これをどう評価ふんするかですねえ」「三回転、ふん、の予定ふんでしたけれどふん、二回転にふん、なってしまいましたねえ」

むしろ音声そのものよりも強く、鋭く入る息。ふん。

ふん。ふんは、どうしたって、ふん、である。

「ああー、残念ですね、ふん」の場合のふんは、いくら当人が「残念だけれどこの後で挽回してね」という意味を込めて笑ったとしても、ふん、なのである。「あいつなんか滑って転んで尻餅ついて負けちまえばいいんだ、ふん」のふんと、同じものになってしまうのである。

つまりそれは、鼻で笑った、ふん、なのである。

私はよく知らないのだが、はっきりと「ふん」と言う人がいたという。昔々その昔広島の監督だった広岡という人は、アナウンサーが「今のは見事なプレーでしたねえ」と言うと、「ふん! 」と高らかに鼻を鳴らしたのだそうである。

それは明らかに鼻で笑うもので、もしかしたら元監督は笑ってさえいなかったのかも知れない。彼は現役時代名手だったと言うから、ファインプレーなんてものは鼻で吹き飛ばす程度だったのだろう。おそらく、適当にべんちゃらしてお茶を濁しているようなアナウンサーの態度も気に入らなかったのだろう。私は彼の現役時代を知らないし、何がファインプレーで何がそうでないのかも知らないが、それから彼をあまり目にしないし、声も聞かなくなったような気がする。

べんちゃらを言うだけが解説ではないし、時にはきつい指摘も必要だと思う。ただ、彼女の場合には、鼻で笑っていると指摘されたか、本人が気づいたのか、どちらかは定かでないが、途中から息が入る回数がずっと少なくなった。

日本だけがそうではないと思うが、女性は話している時には笑顔を作っているべきだと躾けられる。もちろんその笑いは、決して鼻で笑うものであってはならない。どんな場合でも、優しく思いやりがあり慈悲深いものでなければならない。

だから、面白くも何ともない話なのにやたら笑い声を立てながら話す女性がよくいる。そういう女性に合わせて笑わなければならないのはとても疲れるが、反面、ずっと笑っているのも大変だろうな、とも思う。

彼女は、笑いそうになってもぐっと息を詰めていたのだろうか。

それは、三回転ジャンプを決めるのよりずっと難しそうである。

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