小銭

テーブルで小銭が転がる音。

割り勘にしたいからなんだろうが、財布丸ごとぶちまけるもんだから、どれが誰の十円玉なのか分からなくなる。

土曜日の昼下がりだからファミリーレストランが混んでいるのは仕方ないとしても、ボックス席に雀みたいに固まって座っている中学生はうっとおしい。

また転がる音。たかが数百円の計算に、もったりと時間を掛けている。私もそうだったろうか。十円玉に、あんなに固執したろうか。

また転がる。テーブルの下に落ちる。十円玉の音が、一番響く。そういえば、小銭の中で一番匂いがきついのも十円玉だ。

割り勘だからではなく、手慰みに十円玉をばらばらさせる男の子を、見たことがある。

男の子といっても、大学生だった。それが分かったのは、十円玉に負けないほどのでかい声で彼が喋っていたからだった。しかも東京弁で。

待ち合わせをしていたので、席を立つわけにもいかなかった。入り口に近いところに座っているので、音は店内中に響き渡る。

どうも、その席では軽い喧嘩があったようだった。東京弁の彼は私の方に向かって座っていて、背を向けて二人女の子が座っていた。

喧嘩相手は先に席を立ったらしく、彼はその連中についてなんだかんだ文句を言っているようだった。男は喋っている間中ずっと十円を鳴らしているし、女の子の声はあまり聞こえないのではっきりとは分からないが、グループ内で彼は浮いているようだった。

「俺は東大受験したんだぜ」「そんなもん、受けるだけやったら誰でもできるわ」

彼はおそらく、「へえー、東大受けたんだって、凄いねー」と言って欲しかったのだろう。次の台詞はこれだった。

「麻布のヒロセっていえば有名だったんだぜー」

ほほお、アホで有名やったんかい。

つい、突っ込んでしまった。

彼はきっと、十円玉なのだろう。だから、ずっと十円玉を触っていられるのだ。

誰もが知っている、超有名な規格品。全国どこに行っても通用する。

けれども、誰も彼のことを気にしない。彼がそこにいても、いるのだということに改めて気がつくことはない。誰も彼のことが好きではないし、彼の話も好きではない。

一番耳障りな音のする、変な色の彼のことを。

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