エキシビション

エキシビションは、この場合フィギュアスケートのものを指す。

ちゃんと画面の前に座って集中して見るスポーツは、フィギュアとボクシングだけである。

フィギュアはあんな危ない靴を履いて、かちかちの、しかも冷たい氷の上で高く高く飛び上がったり持ち上げたり回ったりするのに、綺麗な衣装を着て音楽も流れて笑顔である。ボクシングは、ろくに知らない、恨みを買う覚えもない奴にぶん殴られる、という最高に腹の立つ状況でもルールを守って戦わなければ負けになる。

何だか、似ている気がする。

他のスポーツにあまり興味が持てないのは、実際の感覚がそのまま表現されるからだろう。ぶつかると痛い、失敗すると悔しい。けれどボクシングでは痛い顔をしている暇なんてないほどすぐさま顔が腫れてくるし、フィギュアは痛がっていると体が縮こまって芸術点が低くなる。

走って苦しい、ぶつかって痛い、力を入れて辛い。それは、ごく当たり前のことなのである。ごく当たり前のことが表現されていることに、私の食指はあまり動かない。それと全く逆の、膝が割れるほど痛いのに満面の笑顔でスパイラルをしたり、意識がほとんどないのにゴングが鳴ると立ち上がったりすることに、私はスポーツの真実を見ようとする。

苦しいと顔に出せないこと、辛いと口に出せないことが、実は一番辛い。その辛さを慮るのではもちろんなくて、極限までその辛さに堪え忍ぶその姿に、本来が究極の見せ物であった、太古のスポーツの姿を見る。

エキシビションが好きなのは、本戦の時よりも曲が自由に選べるので、歌詞が入っていることにもある。

そこで、Cheap Trickが2曲使われていたことがあった。確か、まだソ連があった時代のことだ。

8ビートの無駄のないメロディーに、ロビンのかすれた声が絡む。七色と呼ばれる彼の声は、本戦の緊張感から解き放たれたスケーターへの、ご褒美である。規定通りに飛ばなくてもよい、審査員の目を気にしなくてもよいプログラム。享楽的であるのにストイックな、スタンダードなアメリカン・ロック。

疲労は極限に達しているであろうのに、これまた笑顔に、とびきりのジャンプ。

喝采の、終わることはない。

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