ヨーグルトヨーグルトって、本当にそんなに体にいいのだろうか。 長嶋茂雄の容態がリアルタイムで伝えられるのを聞きながら、そう思った。 最初に断っておくが、決して長嶋茂雄を好きではない。 彼のことを好きなのは、彼と同世代の男性である。 彼は、戦中派の青春代理人なのである。石原裕次郎亡き後、に、戦争を知っているが戦争責任のない世代がお手本にできる、最後のスタアなのである。 食べ物に不自由したとかなんとか言いながら大学まで行く。それが国立大学でないのも優秀な私立でないのも嫌味でなくていい。大好きな野球を仕事にしながら、綺麗な女の人と恋愛結婚して子供を授かって。 彼のようになりたいと思う人々が愚鈍なほどに憧れるのが、長嶋茂雄という人なのである。 彼は、戦中派らしく体に気を使い、煙草も吸わず酒も飲まない。体にいいものは何でも試してみるという。 けれど、どう考えても、彼がヨーグルトを好きで食べているとは思えない。 免疫力が上がるから。腸の調子を整えるから。血圧が下がるから。とにかく体にいいから、だから無理矢理食べている、としか思えない。 彼は、子供時代には乳製品をほとんど口にしていないはずである。 ヨーグルトは乳糖が分解されているとはいえ、れっきとした乳製品。そして、強力な発酵食品でもある。 発酵は、実は腐敗と仕組みは同じ。菌が増えている。その菌が毒素を出すか出さないかの違いなのだ。 確かに、味噌や醤油、酒も発酵食品だし、浅漬けや糠漬けもそうだ。日本人も発酵食品を長い間、口にしてきた。 しかし。生きている菌の数は、日本の食品の場合、極めて少ない。それはきっと、日本人の体が大量の生きた菌を受け付けなかったせいだ。 最近のコマーシャルを見ていると、生きたままの菌はさも体にいいようなことを言っているが、大量の生きた菌が体に流し込まれることに、長嶋茂雄の世代の、しかも酒に弱い体質の人間が耐えられるとは、とても思えないのだ。 それに、好きではないのに無理矢理食べることは、とても強いストレスになる。酒も煙草も、そして女性の趣味もないのなら、一番の楽しみは食事のはずである。それなのに、好きでもないヨーグルトを無理矢理口にしなければならないのだとしたら。 彼を、追いつめないで欲しい。栄養に対する知識が皆無の男性に、根拠のない健康志向を追しつけないで欲しい。 私の父が61で亡くなったのは暴飲暴食のせいもあるだろうが、成長期に充分に栄養が得られず、今とは比べようもない社会的不安に晒されて、見かけよりずっと体力がなかったことにも依るのだと思う。 もちろん、ビタミンが入っているからといってドリンク剤をがぶ飲みしたり、塩分控えめの食事はまずいと文句を言って食べなかったり、本で豆類が体にいいと知ると「一日に盃一杯分の豆を炊け」などと訳の分からないことを言っていたことも原因ではあるだろう。 だが、父の知識のなさを責めることはできない。 私の父がそうであったように、長嶋茂雄も、料理なんて一度もしたことがないのだろう。男は料理なんてしないもので、出されたものを黙って、または少々苦手でも美味しいよと言って食べるのが、美徳だったのだろう。 それに、料理をしているからといって正しい知識を持っているわけではない。 私の母は料理好きで、普通の家庭より料理のバリエーションが豊富だったが、それでも、ついこの間まで、食物繊維の多い食品を食べ過ぎるとお腹を壊すからと、大好きなきんぴらゴボウをあまり食べさせて貰えなかった。だから余計に便秘になった。 どんなに体にいいと言われる食べ物でも、摂りすぎると良くない。食品の中で唯一、比較的大量に続けて摂って構わないのは、米だけであるという。 そして、ほとんど米だけで生きてきた長嶋茂雄世代の人々に、いきなり舶来ものの食品を押しつけるのは、一種の拷問だと思う。 それは、輸入食品や加工食品で子供がアレルギーを引き起こすのと同じくらい、本人達には何の責任もないことだと思う。 だから、あまり騒ぎ立てないで欲しい。ガンバレガンバレと言わないで欲しい。彼も、もう決して若くないのだから。昭和を背負って死んでいった美空ひばりのような目に、合わせないでやって欲しい。 本当にミスターが好きなら、静かに休養させてやって欲しい。 彼は、誰かの代理ではない。誰かのために生きているのではない。自分のために生きる権利を持った、普通の人間なのだから。 追記。でも、オリンピックの監督はきちんと辞退するべきだ。 Copyright (C) 2004 大宮ししょう all right reserved |