炬燵

お父さんにしたい俳優とか、奥さんにしたい女優の一位とか二位とかいうのが、昔はキャッチフレーズによく使われたものである。

けれど最近はもっと露骨に「抱かれたい」とか「抱かれたくない」というので、中年以上の俳優にはあまり適応されなくなった。

だからというわけでもないが、私は「炬燵で向かい合ってさしつさされつしてみたい」俳優として、橋爪功を推薦しようと思う。

炬燵で差し向かい、これは結構難しい。

顔が良ければ何でもいいというわけにはいかない。遠くから見るとか写真やテレビで見るにはいいれども、少し手を伸ばせば届くような距離ではちょっと甘みが強すぎる、という場合が多い。

炬燵に似合うのは、和風の顔である。髪が赤かったり黄色かったりするのは、真夜中のコンビニや真夏の海岸ではいいが、初冬のこたつで熱燗、にはふさわしくない。

かといって、和風であれば何でもいいというわけでもない。無口過ぎるのもつまらないが、かといって、あまり口数が多いのも困りものだ。近いから、唾なんか飛んでくるかも知れない。炬燵だから、ばたばた暴れると銚子が転んだりするかも知れない。

若い男、しかも顔のいい男には、下戸が多い。まあ、ふたりきりでなく、他に友達もいるのなら酔っぱらっても構わないが、炬燵で酔われたり、寝込まれたりするのでは困る。

それに、若い男は、日本酒、というものに慣れていない。慣れすぎて一升瓶抱えられても困るのだが、日本酒に合う食べ物は松茸の焼いたのや野菜の炊いたのや魚の焼いたので、そういうものを食べられないと炬燵でさしつさされつの雰囲気は出ない。

そして、背中を丸めた、少し可愛らしげな仕草も似合わなければならない。筋肉もりもりや、肩幅バンバンでは、よろしくない。そうそう、足が炬燵に入りきらない、という問題外もある。

さしつさされつやるからには、相手もこちらも、やや上目遣いになるわけである。上目遣いになったとき、その目つきに卑しさが漂うようではいけない。どうしても額に皺が寄るが、そこに生活感がにじんでしまうのも駄目だ。

本当に、難しい。

しかし。橋爪功は、口元に不思議な笑みを浮かべながら、ぼそぼそっ、と話しかけてきてくれるだろう。その癖時々視線を散らせながら人の話を聞いていないふりをするから、やきもきしなければならない。

この人、私のことをからかっているのか、馬鹿にしているのか。

かといって、気を使っていないわけではない。こちらの好みをきちんと覚えていて、「これ、おかみに無理言ってこしらえて貰ったのよ」などと言いながら、黄金色の栗ご飯を出してくれたりする。

「おいしい? そりゃそうだろ、だってわざわざ栗を取り寄せて貰ったんだもの」と、ご機嫌だったりして、だからさっきから足が変なところに当たっているのも、それはそれ、と思えたりするのだ。

だが、実は、そんなことよりももっと重要な、どうしても避けられない条件がある。

それは、実は年齢ではない。

こたつのための必須条件。

それは、臭いである。

足の、臭いなのである。

それに関しては、・・自信がない。

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