怒り

変わった名前である。釈由美子。しゃくゆみこ。

一発で覚えた。

けれど、彼女の顔を、どうしても覚えられない。

つまりは、そのくらい整った顔だという事にもなる。美しさは没個性と同格だと、三島由紀夫も言っていた、ような気がする。

確かに、無駄のない顔ではある。特に、顎がすっきりと細いが、頬が丸い。そして、肌は余分な脂肪を含まず、限りなく薄くふくらんでいる。

脂肪を含まない肌は、性の臭いも含まない。細いが整った骨格にまとう肌は、そういう意味で、すこぶる清楚である。

そして、小さい頭蓋骨には、綺麗に切り揃った髪。あのショートは、頭の形が良くなければ、まずは似合わない。

すべてにおいて、女性が夢見る女性の理想の顔であると、言い切れる。

しかしそれは、言い意味でも悪い意味でも、すこぶる平均的だということになる。バランスがいい顔、欠点のない顔。つまりはこれと言った特徴のない顔。

けれど、彼女の顔を覚えられないのは、そのせいではない。

整いすぎているからではない。

彼女は、顔が変わるのだ。

お化粧が違うとか、服装が違うとかいうのではない。

グラビアアイドルである彼女は、真冬でも水着を着て、雑誌の中からこっちを見ている。水着に濃い化粧は似合わない。

彼女には青い水着が本当によく似合う、と思う。スクール水着のようなやつではなく、空色のビキニ。ぴらぴらしたのではない、すっきりしたシンプルなやつだ。大き過ぎない綺麗な胸と、長い首。引き締まっているのに決して筋肉質ではない腹。ああ、あんなスタイルだったらいいのにな。ほとんどの女性がそう思う、そういう体。

何が似合うかまで知っているのに、それでも私は彼女を見失う。写真の下の名前を確認するまで、それが彼女だと分からない。

グラビアアイドルは、いまやバラエティアイドルや女優と同格で、つまり恐ろしいほどの数に増殖しつつある。

平均身長が高くなり、反比例するように座高が低くなる。八頭身なんて、もう珍しくも何ともない。

そんな中で、彼女がトップに君臨しているのは、もちろん名前が変わっているからではない。

彼女は、怒っているのだ。

かつての木村拓哉のように、ぎりぎりとこちらを睨みつけている。

それも、水着で。

上目遣いというのは、普通は媚びたエッチな目線になるはずであるのに、彼女は怒っているのだ。頬を引きつらせて、目の端を尖らせて、薄い唇も震えている。ようにみえる。

あんまり怖い顔で怒っているので、私は彼女を見失い、若い男達は興味をそそられる。

彼女を怒らせているのは、何なのか。何が彼女を怒らせているのか。

それが彼女の戦略なのか。小池栄子が「私は癒し系ではなく威圧系になりたい」と言ったように、彼女は憤怒系になりたいのだろうか。

分からない。

怒った顔が可愛いのは、いいことである。笑顔なんてものは、実際どうでもいい。笑った顔が可愛いのなんて当たり前だからだ。ぷん、と膨れたときが可愛くなければいけない。

よど号事件の再現ドラマで、彼女はスチュワーデス(今はフライトアテンダントかな)役だった。熱気の籠もった機内、スカートで顔の汗を拭いたところを見られて、ぐいっと睨み返す。

お、おお、可愛いな。

では、グラビアのあの怖い顔は、やっぱりグラビア用の顔なのだろうか。グラビアのためにだけとっておく、表情なのだろうか。

だとしたら、彼女は、本物のプロだ。

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