威圧系

少し駅から離れたところにあるパソコンショップに、久しぶりに出かけた。深く長い、しかし真新しい店舗が並んで明るい地下道を通って高速道路をやり過ごすのだが、エスカレーターの裏側に、いつの間にか本屋が出来ていた。

そこは意外に広くて、今時の本屋らしく雑誌が多いのだが、絵の専門誌なんかもあって、ちょっとうろうろしてみる。

と。一色刷のポスターが貼ってある。サイン会のお知らせらしい。

写真集の出版を記念して、小池栄子握手サイン会。(握手はひとり一回とさせていただきます)

いつ、いつ、いつあるの。

いや。だめだ。

そういうサイン会に集まる群がるたかる男達に紛れ込む勇気がなければ、辿り着くことは出来ない。彼女に届くことが出来ない。

・・って、握手して貰うつもりなのか? して貰って、どうするつもりなのか?

どう、って。どうもするつもりもないけれど、ただ、ちょっと、近くで見てみたいだけで。

近くで見てどうするの。話できるわけでもなし。だいたい、あんた、つまり私、彼女と同じ女だろうが。しかも彼女よりひとまわり以上年上、いや、親でもぎりぎりおかしくない年齢じゃないか。そんな奴がファンだなんて、気持ち悪いだろうが。彼女に迷惑掛かるだろうが。

迷惑、って、あらゆる年齢層に指示されてますって事で、さらに好感度アップ、ってことにならないかい。

アップなんてしないってそんなことで。

結局、サイン会に訪れる勇気は出なかった。考えてみれば、握手して貰わなくても、遠くから見るだけでも良かったのだ。彼女は背が高いから、あの形のいい丸い頭のてっぺんだけでも拝めたかも知れない。

拝めた。

そう、拝んでみたい。

彼女は、ほぼ完璧な丸顔だ。いつもきゅっと髪をまとめているので、頭の形がよく分かる。頭蓋骨の形そのものが、美しいのだ。

しかも、大きな瞼の上に三日月の眉、眼はぐりぐり見開いていたりマスカラぼてぼてのではなく、涼しく柔らかい切れ長で、目尻に向かって長い睫が上品に流れている。

唇も、中心部に行くほど厚くなり、けれど口角にはぴしっと締まりがある。鼻は、ちょっと開き気味で、でも横から見ると顔の真ん中からぐっと立ち上がって高い。

ああ、綺麗だ。

だから、モーニング娘。のカードに紛れた彼女のカードを見つけたとき、印刷が悪くてあんまり綺麗じゃなかったにもかかわらず、手に取ってじーっ、と見つめてしまった。

しまってから、決まり悪くなって、こそこそ奥に隠してしまった。隠してどうする。

そのくせ本屋では、彼女の横顔が表紙になっている本が他の本に遮られないように、ちょっと動かしたりしてみる。

そんなわけで、近頃の私の行動は、かなり怪しい。

綺麗な女の人と友達になれるので、女に生まれて良かった、と思う。

けれど、綺麗な女の人を恋人には出来ない。正々堂々と、彼女の水着のポスターを部屋に貼ることも出来ない。

いや、別に、やりたければやればいいのだが、何だか彼女に申し訳ないのだ。

彼女は、胸が大きな女の人がたくさんいる事務所にいる。でも私は彼女の胸の大きさに云々しているわけではない。完全に丸い、涼しい顔と、賢そうな瞳、ちょっと低い声が好きなだけなのだ。

ああ、でもやっぱり。

胸元が、気になる。彼女はあまり露出度の高い服は着ないけれど、それでもあれだけ見事だと、どうしたって胸元が目立つ。

見てしまう。見てどうするんだよ。確かに綺麗だけれど、姿勢がいいからとても健康的だけれど、女の私が見て・・。

ああ。

やっぱり、見ちゃう。

女の人の胸を愛でるのは男で、女はそういうことをしちゃいけないんだ、と思いこむ方が失礼なのかも知れない。

実は、女同士でも胸の形はしっかりチェックしているもので、気が置けない友人だと「あんた痩せてるけど胸はしっかり大きいよな」と言われたりする。それはきつい言い方ではあるが、誉め言葉と解釈して構わない。

でも、私は彼女の友達ではない。「あんた顔丸いけど小さいよな」「胸凄いでかいけど引き締まってるよな」「写真、いつも強烈なポーズしてるけど決まってるよな」

ああ、なんて失礼なっ。何て事をっ、謝りなさいっ。

やっぱり、この頃ちょっと、私はおかしい。

(彼女は癒し系ではなく、「威圧系」を目指しているそうな。こりゃ完全に、威圧されてるな。)

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