仙人

たぶん彼女はこんな台詞は聞き飽きているだろう。「天は二物を与えずって言いますけど、与えられる人もいるんですねえ。」

特技は計算だという菊川怜は、「ちょっと可愛い」とか「ちょっと綺麗」とかいうレベルではない。

優香じゃないけど、どきれいだ。

高校二年の時、たった一度だけ、学年で一番を取ったことがある。

まぐれだと、まず思った。本当にそうで、二度とそんなことはなかった。たぶん苦手の英語の文法問題が易しくて、国語の問題作成者と気が合ったのだろう。

偏差値は七十と少し。さすがに普段よりはいい。いつもは気にしない全国順位を、ふっと見た。千番と少し。私の上に、まだ学年まるまる二つ分がごっそり乗っかっているのである。

そして、この千人の中にこそ、七十五とか八十とかいう人々がいて、東大やら慶応やらに行くわけだ。

そしてその人達にとっては、学年順位なんて何の意味もないものなのだろう。全国で何番か。全国で百番以内に入るとか、偏差値が八十超えるとかいう、想像もつかない世界の人々が、千人もいる。

彼らは、私にとっては千人ではなく、まさに仙人だった。たった一度だったけれども、仙人の衣の裾に、触れた気がした。

彼女はそういう仙人系の人々の一人で、しかもどきれいなんである。

しかし、よく考えてみる。クラスで勉強のできた女の子は、どきれい、とまではいかなくても、結構可愛かったのではあるまいか。

中学時代、数学でよく満点を取っていたMは、ぱっちりとした目に見事な歯並びをしていた。英語がずっと5だったMは、学芸会で白雪姫の役に立候補することに誰も異論を唱えなかった。習字の段を持っている友人が暖房利きすぎとセーターを脱いだとき、二の腕のあまりの美しさに目眩がした。

勉強ができて可愛くない女の子を、私はあまり知らない。勉強できる女なんてみんな不細工だ、という連中は、きっと周囲に勉強のできる人間そのものがいなかったのだと思う。気の毒に。

「マリア」というドラマで、菊川怜は四人姉妹の末っ子を演じていた。四人だと思っていたら実は五人で、彼女の下にはもう一人いたのだった。

「私が一番可愛がられてると思ったのにぃ」

ワインを手に、部屋の隅っこに長い足を抱えて蹲って拗ねていた彼女の気持ち。私は妹ではないけれど、よく分かる気がした。

menu

次へ

top

Copyright (C) 2002 大宮ししょう all right reserved