ちらっ、と履歴書が見えたことがあった。「福知山高校卒業」。

そうか、中澤裕子って、京女なのか。

しみじみ思った。

そのアイドルが好きなのかどうか、よく分からない時期がある。

ばんばんコマーシャルに出て、ドラマに出まくって、名前と顔は一致している。名前の綴りも間違えずに書ける。驚くべき事に新曲の題名まで知っている。

だからといって、好きなわけではない。

垂れ流される情報以外、その子のことを知りたくない。知ろうとは思わない。足が大きいとかラーメンが好きとか、図らずも印象に残ってしまうことはあるけれど、自分から積極的に知りたいとは思わない。

でも、ちらっ、と見えた、一瞬の映像を残そうと努力するとき。私はその子を好きになりかけている。出身高を知ったからといって、どうなるわけでもない。どうしようもない。そんなどうでもいいことに脳細胞の一部を明け渡したとき、私はその子に、まいっている。

彼女がASAYANでひどい目に遭っていたのは有名である。アイドルとしては年を取りすぎている、けれど普通のお気楽OLよりも人生経験のある彼女になら耐えられると踏んだのは、誰だったのか。ジャケット写真の撮り直しやらしつこい駄目出しやらで、「辛い芸能生活」が演出されていた。

果ては演歌歌手としてのソロデビューである。

「いつまでも娘でいられるとは思ってなかった」、そんな本音まで吐かせて、うらびれた温泉宿にキャンペーンに行かせた。

会社の憂さ晴らしに飲めない酒を飲んだ安サラリーマンが、酔っぱらって彼女に絡む。

こらあ、裕ちゃんに何すんねん!

それが仕込みだと気づいていながら本気で腹を立ててしまった私は、もうすっかりただのファンに成り下がっていた。

だから、ドラマで裕ちゃんがトータス松本のズボンのお尻を縫っていた時には、声に出してこう言ってしまった。

俺のも縫ってくれ。

新聞のインタビューに、彼女がこんな風に答えていたことがある。

「自分の顔に飽きてしまうんですよ。だから、コンタクトを入れてみたり、髪を染めてみたりするんです」

彼女は、決して表情のない人間ではない。眉間に深々と皺を寄せてにらみつけたり、腕を振り回しながら不平を言ったり、反っくり返って笑ったりする。男の子のようにも見えるし、すっかり大人になったという感じも持っている。

おそらく彼女は、自分の写真を何十枚も見て、自分の顔に食傷してしまうのだろう。アイドルになりたいと思うのだから、自分の顔に自信がないのでは決してない。

けれど、あまりにも頻繁に、レコードジャケットやテレビや印刷物から自分の顔が出てくる、そこに自分はいないのに自分の顔があるということに、それが仕事だとは思いながらも、胸焼けしてしまうのだろう。

ピンクレディーケイが、こんなことを言っていた。「入院している間、テレビをつけていると、自分たちが出てくる。自分はここにいて、ベットの上に横たわっているのに、ずーっとずーっと出てくる。私はここにいるのに。それで、とても気持ちが悪くなってしまった。」

それが普通の人間、普通の感覚を持った人間だと思う。テレビの中にだけ自分があるのではない、生身の人間の感覚だと思う。

だから、頼むから。飽きたからといって整形なんかしないで欲しい。

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