オタマジャクシ


パソコンが、壊れた。

フリーズとかクラッシュとかではない。本当に、壊れてしまった。割れてしまったのである。

私のパソコンはノート型である。だから、キーボードと画面が折り畳めるようになっている。その蝶番の部分の、キーボード側から見て左の部分が、割れてしまったのである。

ちょうど、肩を脱臼して、しかも骨にもひびがちょっと入っている、という状況になってしまった。隙間から、モーターのコイルのようなものが見える。動かすと画面に白い線や黒い線が走り、起動しても映らなくなる。うう、痛そうだ。

それは液晶のコードで、そこが破損しているからでしょう、と、メーリングリストで教わった。切れてしまったら全く映らなくなるし、もしかしたら、液晶にも影響が出ているかもしれない、と。

即日、入院。修理のカウンターでも、もしかして液晶も壊れていたら保証が切れていますので、お電話いたします、と言われた。

ああそれからの一週間の、長かったこと。

しかし、パソコンは十日で戻ってきた。液晶も大丈夫だった。偉かったねよく頑張った。肩のところはヒンジ、というのだそうで、肩なのに肘とはこれいかに、コードとヒンジを取り替えて貰って、綺麗に掃除までして貰って、パソコンは再びリビングに落ち着いた。 

けれど、声を大にして言うが、私はパソコンを落としたりぶつけたり殴ったりひねったりつねったりはしていない。決して断じて。大事に大事に、ノート型にも関わらずほとんど持ち歩かず、リビングで使っていたのである。

じゃあ、何でそうなってしまったのか。

それは、彼がオタマジャクシだったからなのである。

キーボードの角度を調整するためだろう、私のパソコンは両肩の裏側に足が生えるようになっている。

いや、なっている、と言うと、私が最初からそれを知っていたかのように聞こえる。

実は、脱臼したパソコンをひっくり返してみて、彼がオタマジャクシから蛙になろうとしていたことに、初めて気づいたのである。

さらに実は、パソコンの下にはソフトケースを敷いていた。ファスナーを閉めてくるっとくるむようになっている、スウェットスーツと同じ素材だという、あれである。机の上に直接置くと痛いかな、と思って敷いておいたのが、大きな間違いだった。

ケースは柔らかい。故に、何かの拍子に出てしまった足は、ケースにめり込んだ。しかし傾きは緩やかだったので、全く気づかなかった。そうして斜めになったまま使い続けるうちに、負担のかかっていた左のヒンジが、少しずつ変形していったのである。ご存じのように、使用中のパソコンはかなりの熱を持つ。プラスチックは熱によって柔らかくなる。

パソコンは真っ直ぐなところに置いて使う。当たり前のことである。けれど、間に柔らかいものを敷いてしまったら、何の意味もないのだ。

 かくして、パソコンは退院後も元気に私にこき使われている。

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