まわるもの


昔は、テレビのチャンネルは回るものだった。

古くなると接触部分が劣化して、ばりばりいって怖かった。リモコンも最初の頃はでっかくて不細工で、しかもチャンネルはそのままなので、リモコンのボタンを押すとチャンネルがばちん、ばちん、と回って、これまた怖かった。

そんなことを思い出したのは、私の言語能力の切り替わりが、まさにばちん、ばちんだったからだった。

韓国語とはもう5年以上のつきあいになる。日本語と文法が似ているので、チャンネルは日本語のすぐ隣にある。チョナンカンに出てくるハングルくらいなら、全部読める。ふふん。日本語のチャンネルが1とすると、韓国語は2だ。ばちん。

漢字だからと中国語も囓り始めた。応用編になってもイーピン(発音記号)が書いてあるので、読むふりはすぐできるようになった。意味も分かる。さすがに漢字。

けれども文法が違う。主語のすぐ次に動詞が来る。しかも、補助動詞の順番が入れ替わると意味が変わったりする。だから、漢字は読めるけれど文法がかなり違うので、チャンネルは反対側の10だ。ばちんばちん。

次にドイツ語。NHKのテレビ講座が面白いので見ている。しかし、名詞に性別があるというのがどうしてもなじめない。発音もすこぶる難しい。当たり前だがイーピンもない。文法は、まずどれが動詞か分からない。単語は英語と同じ奴ばっかり覚えてしまう。ああ。ほとんど映らないチャンネル、5だ。ばちんばちんばちん。

さらにイタリア語。NHKの中国語講座の前がイタリア語なので、時々聴く。食べ物の名前ばっかり覚えているし、スペイン語との区別が付いているのかどうか、自信がない。映っているとは言えない、7だ。ばちんばちん。

最後に英語。簡単な会話を聞き取ることはできる。実際、買い物くらいならできる。ハワイでベルトを買ったり、サラダの中身は何か尋ねたりできた。しかし、長くなると何の話か分からなくなるし、文法は未だに苦手。字幕付きで8チャンネル。ばちんばちん。

これがリモコンのようにさっさと切り替われば、まだましなのである。しかし何せチャンネルなので、途中で止まったり、戻ったり、遠いチャンネルだと映らない局を通り過ぎる間の砂嵐がある。ざーーっ。ざーーーーつ。

これを中国語でどう言うか、と考えているつもりで、韓国語が口をついていたりする。ドイツ語の単語を思い出さなければならないのに、イタリア語が横入りしていたりする。

ばちんばちん、ざーーっ。

つくづく、のろくさい頭である。

しかし、そんな自分の頭を楽しんでいる自分がいる。

おそらく、母国語以外の言語をぺらぺら話せるようになるには、一生なれないだろう。ばちんばちんざーっ、が一生続くだろう。

ざーっ、の瞬間、私の頭は完全に停止している。血の巡りが止まっている感じすらする。しかし次の瞬間、ちらちらっ、と小さな炎が揺らめく。それは正解であったりなかったり、韓国語混じりの中国語だったりする。

それでも、私は何かの光を見たような気がするのだ。

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