チヂミまない


1行め 好きな野菜を買いそろえる。基本はネギとニラとモヤシ。刻まなくていいから無精な人はこれで十分。彩りと歯触りを加えたいなら人参。南瓜を細く切ったり、キャベツを刻むのもあり。チヂミの素も買ってくる。肉は基本は豚肉だが、イカや海老やホタテ貝柱の冷凍物を入れると豪華。

2行め チヂミの素を水で溶く。なるたけ冷たい水で。5センチか6センチかそのへんくらいに切った野菜、海鮮は冷凍なら凍ったまま入れる。

3行め 熱したフライパンに油を敷き、タネを流す。肉はここで、生の海鮮はここで上に並べて、中火で焼く。蓋が出来るなら蓋。縁がうっすら焼けてきたらひっくり返し、チーズなどがあるならここでぱらぱら降る。できあがり。

粉ものが続くなあ。小麦粉からタネを作ってもいい。分量は一対一、小麦粉1カップなら水も1カップ。特にコツはない。ただ、摺りおろしたジャガイモを入れると香ばしくなる。

ここで注意。卵は、入れない方が良い。なんというか、つまらなくなってしまうのである。

私がよく使うチヂミの素には、粉末の海老の粉が入っている。その香ばしさが、卵を入れると薄れてしまうのだ。歯触りも柔らかくなりすぎる。海鮮の味も、卵を入れない方が際だつような気がする。まあ、あくまで「気がする」だけれど。

チヂミの素も最近は各種あるようで、気に入ったものを探すのも楽しい。「韓国風お好み焼きソース付きチヂミの粉」という丁寧なものから、日本語のシールを上から貼っただけの直輸入ものまで様々ある。

チヂミというのは、韓国南部、プサンの方言なんだそうである。私がよく買うのは「プチンカル」と書いてある。

ハングルではbucimgaruとなる。

bucimは「プチン」、「焼く」という意味の「プチダ」の名詞形。garuの「カル」は粉。コチュカルは唐辛子の粉。

そう。お好み焼きの粉、と、ほぼ同じ意味である。

広い意味での「なんとか焼き」なら、「なんとかジョン」、漢字だと煎になる。鉄板などにぎゅっと押しつけて焼くことを意味するのだそうな。ネギ焼きなら「パジョン」、あれこれ野菜や肉を入れると「チャプジョン」、つまり雑煎になる。漢字で書いたお好み焼き、である。ちなみに、最近人気の「チャプチェ」は雑菜。野菜炒め、の漢字バージョン。

だから、椎茸や蓮根、海老、蟹などに卵の衣を付けてじゅっと焼く、のもジョンになる。見た目は日本の天麩羅とそっくりで、お祝い事などがあるとこれをたくさん作るのだそうな。

ついでなので、椎茸や蓮根に詰める挽肉種の作り方も書いておこう。

牛挽肉赤身100グラムに対して、醤油小さじ1塩小さじ二分の一、胡椒少々、砂糖大さじ二分の一、ごま油といりごまと長ネギのみじん切りは各大さじ1、おろしニンニクは小さじ二分の一。分量は目安。ニンニクはひとかけ、ネギは半分くらいか。よく練って、椎茸の裏側やさっと茹でた蓮根の穴に詰めて、溶き卵を付けて、じゅっ、である。

手間が掛かるので、じゅっ、とするのは人にやらせよう。ホットプレートでいっぺんに作るのが早いかも知れない。鶏肉に卵を付けてもいいし、アサツキにアサリを乗せるのもいい。組み合わせは自由自在だ。卵が余ったら挽肉種を真ん中に置いてミニオムレツにしてしまうのもいい。必要以上にたくさん作って、残ったら鍋の具にできる。丼にも出来る。

余ったチヂミを次の日のお昼にのんびり食べるのも、また美味しい。ところが、どうしてだかある日のチヂミは、入れたはずのないワサビの味がする。

それも、とても新鮮な、爽やかなワサビの味だ。

どうしてだ。どうしてだ。どこからこんな味が出ているのだろう。

生地だけ食べてみる。違う。香りは移っているけれど、味はしない。海老やホタテでもない。ニラでもなさそうだ。

キャベツをつまんでみる。ああ、これだ。キャベツからワサビの味がする。というよりは、ワサビ味のキャベツになっている。

キャベツとワサビ。どちらもアブラナ科。キャベツはヨーロッパ原産、あの丸い玉状になったのは16世紀以降のこと。ワサビは日本に自生し、昔からそのままの姿で、日本以外の国ではほとんど食べられていない。

そういえば、ホースラディッシュってのもあったっけ。あれはワサビに近い味がする。このキャベツは、本当はホースラディッシュになりたくて、でもなれなくて、韓国の粉の中で暖められて、日本の冷蔵庫の中で冷やされて、その夢を叶えたのかも知れない。

なんだか、ワールドカップだ。
 

参考文献 NHKきょうの料理シリーズ チョ・カムヨンの食べたい作りたい朝鮮料理 チョ・カムヨン著

大好きな本です。この一冊で、宮廷風のご馳走からお総菜、デザートまで作れます。私の料理の幅は、これでぐわっと広がりました。

次へ

menu




Copyright (C) 2002 shishow