電話。

それは突然の電話から始まりました。

といっても、電話は突然かかってくるもので、予告電話なんてものもありません。何かが起こることを予告する電話はあっても、電話がかかってくることを予告する電話なんてものはないのです。あったって無駄です。

まあ、とにかく、かかってきた電話の内容は、私の予想しなかったものでした。

成人する少し前、暗黒の公務員時代を送っている上に、まだ実家にいる頃のことですから、二十年以上前になります。

黒電話の重い受話器の向こうから聞こえてきたのは、中学時代の友人の名前でした。

いや、友人というのは嘘です。

私は彼に振られました。といってももちろん、その辺は田舎の中学生ですから、深いつきあいだったわけではありません。

卒業の直前、私と彼は違う高校に行くことが決まっていて、だからもうどうでもよかったのですが、彼の方がわざわざ私と別れたいと言い出して、しかも直接私に言えばいいものを友達に伝言したことで私は相当に腹を立てていました。

さらに腹の立つことには、彼が行った高校は、私が楽々と行けるはずだった高校でした。勉強しなかったのは私が悪いのですが、「今、つきあっているのは、そこの高校の先輩やねん」などと言うに至っては、おまえそれ自慢かい、と、火に油なのでした。

本当は。

それでも三年経って私も少しは大人になっていて、やあ懐かしいなあ、などと言って見せたりしていました。なぜか高校に入ってからは中学の友達と次々に縁が切れてしまって、他の中学の子達とばかり遊んでいましたから、同じ中学の友達の動向はほとんど知らなかったのでした。

そんなこんなで、久し振りに会おう、ということになりました。

隣の駅で会ったのは、本当に中学時代と全く変わっていない、ただ坊主頭ではなくなっただけの、彼でした。

しかしまあ、どうしてこんなに駅前に何にもないところを待ち合わせに選んだのか、と思う間もなく、やたらにでかいバイクを押しながらの彼についていった先は、お寺のようなところでした。

彼は、ある宗教の勧誘のために、私を誘ったのでした。

そのまま帰ってしまえばよかったのかも知れません。

でも、何か私は挑まれているような気がして、喧嘩を売られているような気がして、掃除の行き届いた門をくぐってしまったのでした。

未来。

そして、勧誘が始まりました。

簡単な儀式をすることで病気が治るとか健康になるとかいう類の宗教でした。私は別に病気でもないし、宗教にはもちろん興味もない。

それをそのまま伝えると、彼は、「これは必ず科学になる」と言いました。

私は、科学が万能で人をすべからく癒すことができるなら、近代戦争って何だろう、と言いました。

でも、科学で人を癒すこともできる、と彼は言います。それは医者の仕事であって宗教家の仕事ではない。私は答えます。宗教だというなら科学の尻馬に中途半端に乗ったりするな。

第一、あんたは私を騙してここに連れてきたのだ。

それが何よりの証拠だ。そのくらい、あんたは自信がないのだ。最初に電話でそう言ったら、私が絶対に出てこないことを知っているから、この話を出さなかったのだ。

すると、彼はこう言いました。

そう言われるのは分かっていた。でも、俺はおまえを説得したかった。

おまえを納得させられたら、それが俺の自信になるんや。

あまりの怒りに、私は自分の形相が変わっているのが分かりました。

こいつは、私の虚栄心をくすぐろうとしている。

百年早い。

それに、どうせ同じようなことを誰にでも言っているのに違いない。

その程度で、この私を納得させようというつもりなのか。

千年早い。

私は立ち上がり、また電話するから、という彼に、この件では二度と電話するな、と言い放ちました。

その宗教はオウムではありません。

でも、オウムが話題に上るたび、私は彼のことを思い出します。

彼のことが気になるとか、彼を助けなければ、というのではありません。自分を救い出すのは、結局のところ自分でしかない。彼がその宗教に帰依することで救われたなら、それはそれでいい。

ただ、いかさまのセールスマンのようなやり方で、昔の知り合いで点数稼ぎをしようとした、その卑しさだけは、今でも我慢できません。

  あれこれを おもひはづれる 花野哉        丈草

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いかがでしたか。おひさしぶりです。別に何をしていたというわけではないのですが、ひさしぶりになってしまいました。

つぎはちゃんとします。って、小学生みたい。

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