十六。十六といえば、十六夜です。 いざよい、と読みます。十五夜の次の日の、年老いた月。 その月の味わいが分かるようになれば大人だけれど、あなた達にはまだ分からない、と決めつけたのは、中学時代一番嫌いだった国語の教師でした。 何かと言えば何でも決めつけて、「あなた達にはまだ早い」「あなた達にはまだ無理だ」という人でした。 もともと国語という科目は退屈で好きではなかった上に、二言目には決めつけるのが鬱陶しくて仕方なかったので、決定的に国語が嫌いになりました。 しかし、嫌い続けるというのにも体力がいるもので、高校に入学して、やっと離れられたときには、ほっとしたものでした。 高校の国語の先生にはそこそこ面白い人もいて、古典の品詞分解を友達と競争するのも楽しくて、その先生のこともすっかり忘れていました。 やっぱり。あれは、五月だったか、それとも六月だったか。 中学の同級生が、踏切で亡くなりました。 同じクラブ活動だったし、中学を卒業して間もなかったので、お葬式に出席しました。 彼女は女子校に通っていたので、知らない制服を着た女の子がたくさんいて、あっちこっちで泣いていました。私は、どうして無理に遮断機をくぐってまで渡ろうとしたのか、どうしても分からなくて、黙っていました。 そこには、あの国語の教師がいました。そして、こう言いました。 「あの子の分まで勉強するのよ」 知らない制服の子たちは呼応するように泣き、ああやっぱり、私がこの教師を嫌っていたのは間違いではなかった、と、つくづく思いました。 月。いざよい、というとそのことを思い出すのは、月のせいではありません。 でも、亡くなった友達の代わりには、私はどうしてもなれない。 鉄腕アトムは、亡くなった息子の代わりに、天馬博士が作ったロボットです。天馬博士は勝手な奴で、自分が作ったくせに、どうしておまえは大きくならないんだ、とアトムを責めるのです。 そんないきさつを知らない人が多いということは、アトムが本当はどうして生まれたのか、知らない人が多いということになります。 望まれなかった子供。生まれてはならなかった子供。 そんな子供として、手塚治虫はアトムを誕生させたのだという気がしてなりません。最後にアトムは、人類のために犠牲になります。 生まれてはならなかった子供は、他の人のために死ぬことでしか、自分を生かすことが出来ないのでしょうか。 イラク戦でなくなった兵士の中に、グリーンカードを手に入れるために入隊した、アメリカ人ではない若者がいたことを、手塚治虫は生きていたなら、どう感じたでしょうか。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ いかがでしたか。 ああ、もう4月が終わる。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ |
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