九。

九と言えば九九です。小学校の二年生頃にやらされた記憶があります。

やらされた、というからには、嫌だったんですね。はい。何しろ覚えると言うことが大嫌いでした。覚えろと言われると、意地になって覚えなかった。

なんでそんなにまでして抵抗したんでしょうかね。いまだに覚えるのは苦手ですが、それは多分老化のせいもあるのでしょう。

記憶力がまだ若いはずの子供の頃も、とにかく覚えたくなかったので、九九の表はずっと水色でした。

九九を全部間違えずに言えたら金のシール、少し間違えたら(特に7の段)銀のシール、次が赤や黄色で、全然駄目なら水色のシールという、今なら親から文句が来そうな表が、教室の後ろに貼られていました。

しかし、それを見ながら私は一人ほくそ笑んでいたのでした。

九九を覚えなくても、かけ算は出来る。

足し算の組み合わせで、しかもほとんどひと桁の足し算で、かけ算は出来るんだ。

ふふふ。

半分にしてみる。

といっても、ちょっとは覚える必要があります。2は偶数、3は奇数ということと、6は5に1足したもの、7は5に2に足したもの、8は5に3足したもの、ということ。でもこれは覚える、というより、数の性格を理解する、と言った方が早いでしょう。

そして、9は10から1引いたもの。

2の段は、数字を飛ばしていけばいい。4の段はそれを倍、8の段はそれをまた倍。並べて書くならこれで出来ます。

5の段は、倍して半分にすればいい。一の位は必ず0か5ですから、計算も簡単です。

3の段は、足せばいい。四回足すくらいは暗算で出来ます。3掛ける6なら、3掛ける5に3を一つ、3掛ける7なら、二つ足せばいい。

ただ、8の段を単独で訊かれた場合、ちょっと時間が掛かります。

その時は、5と3の組み合わせ。または、ひっくり返す。

かけ算は、前後の数をひっくり返しても結果は同じです。ひっくり返して、小さい数でやればいい。

9の段などは、10倍して一つ引けばいいのですから、らくちんです。

そこで問題になるのが7の段。7掛ける6、7掛ける7。ひっくり返しても、やっかいです。

7掛ける6なら、70の半分の35と7を足せばなんとかなります。

けれど、7掛ける7は、ひっくり返しても7掛ける7。

と、思いつきました。

一の位が9になるのは、3掛ける3と7掛ける7だけ。19も29も39も59も69も79も89も九九には出てこない。49、ただ一つ。

これは、ただ暗記したのではない、発見なのだと、ひとり悦に入ってい たのでした。

便利とは。

テレビでちらりと見ただけですが、「声に出して読む日本語」の著者が、「国語の九九を作っていきたい」と述べていました。

ということは、私は覚えられませんね。

たぶん、日本語特有の音の響きを、読んで声に出すことで体に染みこませていきたい、ということなのでしょうが。

やっぱり、覚えたくはない。

人の言葉を聞き取って、そのまま口にするのも、きっと「覚える」ということなのでしょう。丸ごと素直に、覚える。

私は、それが出来ない。一度私の中に入った言葉は一瞬にして全部分解されて、意味だけ伴って、私の言葉使い、言い回し、ひねりを伴って出てきます。

強力な言葉の消化酵素のおかげで、私は他人の言葉に感染しないのです が、通訳にはたぶん一生、なれないでしょう。

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いかがでしたか。いや、通訳になりたい、わけではありません。

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